2022/09/29
恐慌の原因は賃金上昇のせい?
「セントラルドグマ」はただのドグマだった?を記して、また、最近の株安で、宇野弘蔵(Wikipedia)さんが『恐慌論』という著作で、恐慌の原因は賃金上昇のせいだという「ドグマ」を提唱されていた事を思い出しましたので、現実を確認してみたいと思います。
宇野弘蔵さんが言われていた恐慌が発生するメカニズムは、私の記憶に基づいてごく簡単にいうと、好況が続くと労働市場がひっ迫して労働力の売り手市場になり、賃金が上昇して資本の利潤率が低下して企業倒産が起き、連鎖的に信用崩壊が起きて恐慌に突入するといったメカニズムだったと思います。
確かに、アメリカの賃金は上昇しているけれど、物価の上昇に追い付かず、物価が高いアメリカに嫌気がさしてアメリカから出て行く労働者も大勢いるようなので、労働力のひっ迫によって賃金の額自体は上がっているけれど、抽象的人間労働の量で測る事が可能な価値で見れば、ドルの大量発行によって貨幣価値が低下しているため、アメリカでも労働者が受け取る賃金の価値がどうなっているのかはよく分からないし、たとえ賃金の価値が少しばかり上がったとしても、労働力のひっ迫によって労働が強化されているはずなので、アメリカの労働者は得をしていないのではないでしょうか。*1
したがって、このまま世界恐慌に突入した場合は、恐慌の原因は賃金上昇のせいだとは言えないのではないでしょうか。
それでは、なぜ恐慌になるのかといえば、私がマルクスの『資本論』から学んだ内容からすれば、本質的には、資本家がより多くの剰余価値を搾取するために無計画に生産した全ての商品を労働者が全て購入出来るほど賃金を与えられないからであると言えるでしょう。*2
また、資本家が恐慌を回避するために労働者全体に全商品を購入出来るほどの賃金を与えてしまえば、資本家は剰余価値を全く搾取出来なくなるでしょう。
つまり、物理のエネルギー保存の法則と同じで、どちらかが得をすればどちらかが損をするという単純な話であって、「トリクルダウン」というものは幻想にすぎないという事でしょう。
*1「抽象的人間労働」や「価値」については、物価が上がるメカニズムが分かりました?を見てください。
*2「剰余価値」は、労働者が生産した商品の「価値」から労働力の再生産に必要な「価値」を差し引いたものです。